E182CC全段定電流直結シングルアンプ

注) この全段定電流シングルアンプは初段信号ループに問題があり、頓挫しています。ご注意下さい。

ぺるけさんのミニワッター汎用シャーシ頒布から始まったこの話、いよいよ具体的に検討を進めていきます。

回路の検討

基本的には、これまで検討してきた全段定電流シングルアンプの回路をそのまま踏襲します。つまり、初段も出力段も定電流で縛り、信号ループを最短化した上で信号ループからアースラインを排除することで、左右チャネル間のクロストーク改善を狙う、というものです。特に低域でのクロストークがどの程度改善されるか、期待しましょう。

ミニワッターなので、出力は欲張りません。低電圧領域のEp-Ip曲線が提供されているということもあり、また、長寿命によるメンテナンスフリーを期待するという意味も込めて、球にはMT9ピンの双三極電圧増幅管であるE182CCを採用します。

初段と出力段は直結します。電源効率を上げるのであれば、カップリングコンを挟むのが無難です。初段の動作点を最適化できる(低電圧大電流領域を利用することで低インピーダンスドライブ=高域特性を改善する)とともに、出力段ももう少しバイアスを深して最大出力を大きくできると思います。

定数の検討

全段定電流直結シングルアンプ アンプ部 回路図一つの方針として、抵抗等は入手性が高く、一つの部品で済むようE24系列の値を採用しました。そのため、微妙に最適化されていないような気がしないでもないですが、ミニワッターですので出力が多少小さくなろうが気にしない方向で。

まずB電源の電圧ですが、195V巻線を整流して120kΩと1.5MΩで分圧した後にMOS-FETのG-S間で4V落ちるとして、およそ227Vが得られるとします(電源部の回路図はぺるけさんのオリジナル参照のこと)。初段プレート電圧を60Vとすれば、出力段のP-K間におよそ150V供給できます。これを前提に話を進めていきましょう。

定電流回路

まずは初段ですが、その前に定電流回路について検討します。簡単なのはCRD、JFETまたはLM317一発なのですが、初段のVgは2V程度ですのでCRDまたはJFETは使えません。また、電源ON時にB+電圧が信号ループを形成するコンデンサを介してカソードに掛かります。今回の電源回路はフィルタの時定数が大きい(τ≒5.6sec)のでいきなり227Vが掛かるということはありませんが、耐圧35VのLM317を採用するのは不用心です。

そこで、高耐圧トランジスタまたはMOS-FETを使った定電流回路が無難です。高耐圧トランジスタならB-E間電圧が0.6Vですので、初段にも問題なく使えます。ここで注意したいのが、高耐圧トランジスタのうち、内部でダーリントン接続しているものはB-E間が1.1Vぐらいになります。また、B-E間に抵抗が入っているものは小電流では使えないっぽいです。ですので、ダーリントンでない高耐圧トランジスタを選択するのが無難です。

トランジスタを用いた定電流回路と言えば、抵抗一本で済ませるものが楽ですが、定電流特性がよろしくありません。トランジスタをもう一本追加して定電流特性を改善した回路もありますが、B-E間電圧の温度依存性(-2mV/℃)のために、周囲の温度により電流値が変ってしまいます。

そこで今回は、シャント・レギュレータを使うことにしました。2.48VのTL431は初段に使えませんので、1.24VのTLV431(またはそのセカンドソース)で行きます。このTLV431と高耐圧トランジスタのベースへ供給する電流は、B電源から220kΩを介して1mA程度を提供することにします。

さて、ここで本当にこの定電流回路に問題がないか見直してみましょう。

出力段の定電流回路は20mAですが、高耐圧トランジスタのhFEはおしなべて50前後です。つまり、ベース電流が0.4mA必要なのですが、ベース側にはB電源から220kΩ経由でおよそ1mAしか供給していませんので、安定性に不安が残ります。また、20mAの電流のうち0.4mAがベースから供給される訳ですから、コレクタ側は19.6mAの定電流となります。ほんの2%ですが、あまりいい気持ちはしません。

一つの解決策は、もっとhFEの大きい高耐圧トランジスタを使うことです。しかし、この手のトランジスタは大抵、内部でダーリントン接続されており、かつB-E間に抵抗が挟まっていますので、小電流には使えません。つまり、出力段はOKですが、初段には使えないということです。ディスクリートでダーリントンにする、という手もなくはないですが、正直面倒。

そこでMOS-FETです。G-S間電圧が3~4Vになるので初段に使えなさそうですが、D-S間電圧が正であれば問題なく動作するようです。つまり、ソース: 1.24V, ゲート: 約5Vの時でも、ドレインが1.24V以上あればよさげ。今回の初段カソード電位は2.6Vですので、余裕であります。

また、定電流回路にMOS-FETを利用した場合の二つ目のメリットとして、ゲート電流がほぼゼロなのでドレイン電流とソース電流がほぼ等しくなります。デメリットとしては、発振防止のためのゲート抵抗が必要なことですが、これはまあ抵抗一本で済むことですので気にしない方向で。

さらにもう一つ別の手段として、ベース電流を供給する側の回路にガッツリ電流を流してしまうという方法があります。4mAも流せば0.4mA持って行かれても1割ですので、まあ問題ないでしょう。しかしこうなると電圧をドロップさせる抵抗やシャント・レギュレータの電力損失が大きくなります。また、電源トランスが供給できる電流がDC 50mAですので、ここで4mAも使うと明らかに定格オーバーです。素直にMOS-FETで行きましょう。

初段

ようやく本題に戻ってきました。E182CCのデータシートにある低電流時のEp-Ip特性をプリントアウトします。3mA前後の定電流をTLV431とE24系列の抵抗で得ようとすると、430Ωとの組み合わせで2.88mAとなります。データシートの2.88mAあたりに横線を一本引きます。

適当に当たりをつけて、プレート負荷抵抗は56kΩか62kΩあたりにします。電源電圧が227Vですので、プレート負荷抵抗を56kΩ時には4.05mA、62kΩ時には3.66mA、それぞれ横軸と縦軸の値を直線で結びます。先に引いた2.88mAとの交点が動作点となります。後者ではちょっとバイアスが浅いので、前者の56kΩを採用しましょう。この時、グリッドバイアスは-2.7V程度、P-K間は63V程度でしょうか。

出力段

次に出力段です。定電流値を20mAとするための抵抗は62Ωとなります。今度は大電流時のEp-Ip曲線をプリントアウトし、20mAのところに横線を一本引きます。初段のプレート電位(=出力段のグリッド電位)が約66Vですので、残りは160V程度です。ここから、グリッドバイアスと出力トランスの巻線抵抗による降圧分と、出力段のP-K間電圧を得る必要があります。

Ayumi’s Labの記事によると、出力トランスT-1200の一次側(5k)の巻線抵抗は310Ωのようですので、20mA時の降圧はおよそ6Vとなります。残りは約154Vであることを念頭にEp-Ip曲線を眺めてみると、Ep=150V, Ip=20mA, Vg=-4.5Vというポイントが見つかります。ちょうどピッタシですね。素晴らしい。

前述の通り、出力段のグリッド電位はおよそ66Vですので、カソード電位は約70Vです。これがこのまま定電流回路の高耐圧トランジスタに掛かると電力損失(=発熱)が大きくなりそうですので、抵抗でドロップしてあげましょう。カソードとトランジスタの間に3.3kΩの抵抗を挟むことで、トランジスタのコレクタ電位は約4Vとなり、電力損失はおよそ1/20となります。

出力トランスの2次側にはZobel回路を入れました。メインのスピーカーがStirling LS3/5A V2なので11Ωを抱かせていますが、あまり気にしない方向で。もう一つの0.068uFのコンデンサについても、まあこの程度の値でいいでしょう程度です。

出力

全段定電流直結シングルアンプ アンプ部回路図ここまでに検討した内容を反映した回路図です。

それでは最大出力を求めましょう。ここでもEp-Ip曲線を使います。Ep=150V, Vg=-4.5Vという動作点を通る、5kΩのロードラインを引きます。実は縦軸50mAと横軸250Vを結んだ直線になります。グリッドバイアスが-4.5Vですから0V時と-9V時のEpとIpとをそれぞれグラフから読み取ります。Vg=0V時にEp=69V, Ip=36.3mA, Vg=-9V時にEp=212V, Ip=3.2mAといったところでしょうか。出力は

(212 – 69) * (36.3 – 3.2) * 1e-3 / 8 = 0.59 [W]

と求まります。

利得

さて、次に利得を求めます。初段に2Vp-pを加えた場合におよそ38Vp-pとなりますので、初段の利得は19。出力段は上述の通り、9Vp-pの入力で143Vp-pの出力となりますので、利得はおよそ16。出力トランスは5kΩ:8Ωで利用しますので、巻線比はsqrt(5000 / 8) = 25。ということで、利得は

19 * 16 / 25 = 12.16 (= 21.7dB)

となります。出力段は9Vp-pで最大出力になりますが、初段の利得が高すぎる感じです。2Vp-pで9Vp-pが得られれば充分なところに、その4倍強の38Vp-pが得られています。ということは、1/4すなわち12dBの負帰還を施せば、2Vp-pで最大出力が得られそうです。

しかし12dBもの負帰還は、真空管アンプでは強帰還な部類に入りそうです。日和る訳ではありませんが、1Vp-pで最大出力を得られるようにしてしまえば、6dBの負帰還でOKということになります。以下では12dBの負帰還も検討してみます。

負帰還

負帰還は出力から初段グリッドへ帰還させます。位相に注意して下さい。この回路図上では、・を付けたもの同士が同相ですが、1次側は上、2次側は下の巻線になっています。

それでは帰還量を求めていきましょう。負帰還を掛けない素のオープンループゲインは12.16、6dB (1/2)の負帰還を掛けることで6.08にするとします。ぺるけさん流に解こうとすると、このときの帰還定数をβとおき、

6.08 = (β * 12.16) / (β + 12.16)

という方程式を解けば求められます。この時のβは12.16と求まります。初段グリッドに直列に入れる抵抗はほぼそのまま入力インピーダンスになりますので20kΩとした場合、帰還素子Rnfbは

12.16 = (Rnfb + 20k) / 20k

を解くと求められます。この場合はRnfb=223.2kΩとなりますので、E24系列で最も近い220kΩを使うことにしましょう。以上で、帰還素子(Rnfb)に並列に抱かせるコンデンサを除いて、回路定数がすべて決まりました。

ちなみに、初段グリッドに直列に抵抗を入れて帰還させる方法では、入力もこの帰還素子によって分圧されてしまいます。つまり、1Vp-pで入力しても、そのうちの 220k / (220k + 20k) のみが入力されるということになり、見た目の利得が下がりますのでご注意を。

ちなみに12dBの負帰還を掛ける場合、βは4.05, Rnfbは62kΩとなります。この場合、上述の分圧により見た目の利得が3/4に落ちます。ただ、その分、2Vp-pではなく2.67Vp-pで最大出力となりますので、入力レベル的には通常のアンプに近くなるかもです。

ダンピングファクター

E182CCのデータシート(13ページ目)によると、Ip=20mAの時、rp=2kΩとのことで、素のDFはおよそ 5k/2k=2.5 となります。ここに6dBまたは12dBの負帰還を掛けた場合、それぞれダンピング・ファクタ算出便利帳を参考に計算してみますと、

 6dB: (2.5 + 1) * 2 - 1 = 6
12dB: (2.5 + 1) * 4 - 1 = 13

となります。

高域特性

まず、初段の出力インピーダンスですが、rpが分かりません。そこで、Ep-Ip曲線の動作点近くのVgのカーブに接線を引いて概算してみましょう。Vg=-3V, Ip=2.8mAあたりの接線をテキトーに引いてみます。Ip=2.8mAのとき、右隣りのVg=-4VのカーブまでにEpが19V程度増加していますので、μはおよそ19。このポイントから上に線を引き、接線との交点を求めますと、Ip=6.1mAあたり。なのでgm = 6.1 – 2.8 = 3.3 [mS]ぐらい。ということでrp = 19 / 3.3 = 5.76 [kΩ]あたりと求まります。面倒なので、およそ6kΩとしておきます。プレート負荷抵抗が56kΩですので、初段の出力インピーダンスは

(6 * 56) / (6 +56) = 5.4 [kΩ]

となります。さて、次に、出力段の入力容量を求めます。E182CCの入力容量Cinは6pF, P-G間容量Cpgは4pFです。配線の容量も勘案して、Cin=7pF, Cpg=5pFで概算します。ミラー効果によりCpgが大きくなることに留意すると、出力段の利得は前回の記事により16と分かっていますので、入力容量は

7 + (5 * (16 + 1)) = 92 [pF]

と求まります。これらの値により、高域特性は

159000 / (5.4 * 92) = 320 [kHz]

で-3dBになることが分かります。随分と広帯域ですね。

電源回路

E182CC全段定電流直結シングルアンプ 電源部回路図最後に電源部です。この検討を開始してからもオリジナルの回路定数は微妙にアップデートされています(リプルフィルタの120kΩ→130kΩ等)が、気にしない方向で。

大枠はオリジナルと同じです。初段の定電流回路をカソード電位で賄うようにしたため、マイナス電源が不要になりました。初段、出力段ともにカソードがアースから浮いているために、電源のリプルが顕在化する可能性大です。47uFのコンデンサを100uFにすることでリプルはおよそ半分になりますが、時定数が倍になりますので電源の立ち上がりがより緩慢になります。今回は定電流回路にMOS-FETを採用したので耐圧は問題になりませんが、もしLT317を使う場合はシミュレーション等にて確認した方がよいかも知れません。

ちなみに、リプルフィルタによる電源の立ち上がりの遅延は、LTSpiceのvoltageでexpを選択し、Rise Tau(タウ)にリプルフィルタの時定数を、Fall Tauに大きい数字を指定すれば代用できます。今回の120kΩと47uFのケースでは、時定数は

120e3 * 47e-6 = 5.6 [sec]

となります。47uFを100uFにした場合は12secですね。

忘れてはいけないのがヒーター電源。これまでの回路図では特に明示していませんが、ヒーターバイアスが必要です。上述の通り、初段のカソードがアースから浮いている、つまりはヒーターより電位が高いため、ヒーターからのハムを拾いやすくなっています。スリーブの外で、ヒーターから飛び出た熱電子をカソードが拾ってしまう訳です。これを防ぐために、ヒーターの電位をカソードより高くしてやる必要があります。

初段カソード電位が約2.6V、仮にヒーターに12.6V巻線を使ったとしたら、波高値は約18Vです。つまり、2.6 + 18 = 20.6V以上は欲しいところです。こんな中途半端な電位を得るのは面倒ですので、出力段カソードの71Vをヒーターバイアスに流用するのが無難です。春日無線のKmB90Fのようにヒーター巻線が一つしかない場合は、左右どちらかのチャネルからバイアスを与えれば問題ありません。

なお、ヒーターバイアスを与える場合は、カソード-ヒーター間最大電圧(Vkf)に注意です。E182CCであれば200V (DCの場合は120V)のようですので、今回の71Vはまったく問題なさそうです。

ちなみに、ヒーターバイアスを与える場合にRCによるフィルタを挟んでフィードバックを防ぐ [pdf]こともあるようです。

(つづく)

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