書籍付属基板利用 バランス駆動ヘッドホンアンプ

ぺるけ師匠こと木村哲さんの新刊『理解しながら作るヘッドホン・アンプ』を購入すると、付属のプリント基板に加えてもう一枚、プリント基板を有償で入手することができます。1枚でもステレオのぺるけ式FET差動ヘッドホンアンプ(HPA)を実装できますが、これが2枚になる訳です。HPAを2台、ということも考えられますが、私は既に1台自作済みです

せっかくの2枚の基板ですから何か面白いことをしようかなぁと妄想していたところ、BTL(バランス駆動)アンプを思い付きました。BTLはBridged Transformer Lessの略で、負荷(ここではヘッドホン)の一端をアースしてもう一端をドライブする不平衡出力ではなく、両端をそれぞれ逆相の信号でドライブする平衡出力の回路です。正相の増幅器と逆相の増幅器を負荷がブリッジするように接続する訳です。

不平衡出力では左右チャネルでアースラインが共通のため、共通インピーダンスによりクロストークが悪化します。出力をバランス(平衡)化することで、この共通インピーダンスを排除することができ、クロストークの改善が見込めます。また、スルーレートや駆動力の改善も見込めるようですが、私には定性的に説明することができませんのでここでは割愛。

一点注意なのですが、BTLヘッドホンアンプを利用するには、ヘッドホンのバランス化 (平衡出力への対応)が必要です。通常のフォーンプラグ(3端子のステレオプラグ)は不平衡接続にしか対応していませんので、BTLアンプに接続することはできません。左右チャネルのcoldを共通にしてアースに接続すると、最悪、アンプもヘッドホンも壊れる可能性があります。私はAKG K701SONY MDR-CD900STをバランス化して、このヘッドホンアンプで利用しています。

構想

BTLヘッドホンアンプ 回路図(修正版)回路図は、ぺるけさんが公開されている、書籍に付属のプリント基板のぺるけ式FET差動HAPの回路図をお借りしました。片チャネル分です。著作権的に問題がある場合は、お手数をお掛けして申し訳ありませんがご指摘下さい。

初段は差動回路ですので、片方(信号を入力しない方)のFETのドレインから正相の信号が得られます。信号を入力する側のドレインからは逆相の信号が得られます。この逆相の信号をもう片チャネル分のダイヤモンドバッファ回路に入力することで、逆相の出力が得られるという訳です。差動回路による位相反転は精度がよいですので、しっかり精度を取った負帰還抵抗を用いた負帰還回路と組み合わせることで、より精度を高められることでしょう。

負帰還は、出力を分圧して初段ゲートに入力します。この初段FETのゲートに入る分圧抵抗は入力インピーダンスの一部になりますので、あまり小さい値にはできません。入力ボリュームが50kΩほどありますので、同じぐらいの値にしましょう。利得は2倍程度あれば問題ないでしょう。

P-G帰還では、入力がこの二つの抵抗で分圧されてしまうために目減りします。そのため、負帰還素子の抵抗値を同じにして利得を2倍にしたつもりが1倍程度になってしまいます。負帰還素子を51kΩと120kΩにすることで、およそ2倍の利得が得られます。

検証しましょう。およそ2mAを流した場合の2SK170のgmが20ですので、素の利得Aはgm*r = 20*2.2 = 44、なのですが、おおよそ35程度に落ち着くようです。負帰還定数βは(51+120)/51 = 3.35になりますので、負帰還時の利得A’は(35*3.35)/(35+3.35) = 3.06、負帰還素子による分圧を勘案すると、最終的な利得A”は 3.06*(120/(51+120)) = 2.14 となります。およそ6dB、期待した値になりました。

また、負荷を開放した時に10MHzあたりにピークを発生するのを防ぐために、元回路の負帰還素子が200Ω程度であるとのことで、出力に200Ωの負荷を並列に入れておきます。

信号ループも見てみます。hot側のFETドレイン抵抗を含む信号ループを考えてみますと、一つは二つのFETから構成されるループ、もう一つはダイヤモンドバッファからアースを通り、電源デカップリングコンデンサから正電源側の配線を通ってドレイン抵抗に戻るループとなります。この他に、ダイヤモンドバッファから負荷を通り、アース→デカップリングコン→正電源と戻ってくるループ(BTLでブリッジ接続すると、このループがアースを通らずにcold側を通る?)と、ダイヤモンドバッファから負帰還素子を通り、アース→デカップリングコン→正電源を通って戻ってくるループとなります。たぶん。勘違いしてなければ。自信はあまりありません。

さて、cold側も同様に考えてみると、単純に初段FETのドレインからダイヤモンドバッファに入力するだけでは二つ目のループが構成できないことが分かると思います。これを解決するために、hot側とcold側とで正電源を共有しましましょう。デカップリングコン側にある既存の基板パターンを流用することもできますが、ループを不用意に大きくしないためにも、初段ドレイン抵抗のあたりからジャンパーで引き出すのがよいかも知れません。同一チャネルなので共通インピーダンスはあまり気にしなくてよいと思いますが、どうなんでしょうね?

電源周りについて、以前購入した15V 3AのACアダプタが余っているので、これを利用したいと思います。また、負帰還量を増やすことに伴い、マイナス電源も-1.5Vから-3Vぐらいに強化します。

これに合わせて、負電源を生成するダイオードを2コから4コへ増量。電源電圧と負電源の強化に伴い、初段の定電流回路(カレントミラー)の定数も変更します。詳細な計算は省くとして、定電流値を決める抵抗(R13)を510Ωから360Ωに変更すればよいはず。

パーツ集め・選別

回路定数の変更が済んだら、まずは部品集めです。

  • シャーシ: エスエス無線
  • ボリューム: 門田無線
  • その他: ほぼすべて千石電商
  • トランジスタ: 手持ち+通販

まずRCですが、千石電商で揃えられます。東信興業の低ESR品(16V, 470uF)の在庫がなかったので、ほぼ同じ寸法のルビコンの超低ESR品(MCZシリーズ, 16V 680uF)で代用。抵抗はタクマンREY 1/4Wにしたのですが、10Ωのみ在庫がなかったので、以前購入したDALEの無誘導巻線抵抗NS-2Bを使うことにします。だいぶ大き目なので、立てて実装するかリード線をフォーミングする必要があります。

今回使う基板の標準シャーシはタカチのHEN110320またはHEN110420ですが、今回は基板を2階建にするので倍の高さのHEN110620にします。このシャーシはラジデパ2階のエスエス無線にあります。タカチの貼り付けボスとは別に、25mmのスペーサも購入します。ちなみにこの貼り付けボス(タカチ T-600)は、千石電商とネジの西川ではペテットという名称で販売されているようです(型番は同じT-600っぽい)。

あとは、ボリューム、ボリュームツマミ、電源ジャック、電源SW、RCA端子、あたりを買い揃えます。今回はバランス出力なので、1/4インチのフォーンプラグではなく、5ピンのXLRレセプタクル(オス)が必要になります。シャーシのフロントパネルがそれほど広くないので、3ピンのレセプタクルを2つ設置するのは無理っぽいです。また、XLRレセプタクルに被せるキャップも購入しておきましょう。

初段のJFET(2SK170)は手許の在庫から選別します。選別にはFET選別治具を利用します。今回はドンピシャのものを4コ(=2ペア)得ることができました。ラッキーです。

ダイヤモンドバッファ後段のトランジスタには前回と同じく2SC5171/2SA1930を利用します。これも手許の在庫からhFEの揃ったコンプリペアを選別するのですが、前者のhFEは200前後、後者は150前後とまったく揃いません。2SA1930なんて100コ以上も選別したってのに、困りました。仕方がないので、1コ50円でまた仕入れて選別し直しです。この買い足した2SC5171のhFEは低め(中心値が190)で2SA1930のhFEは高め(同じく180)のバッチだったらしく、数%のバラつきで複数のコンプリペアを用意できました。かなりラッキーです。

ダイヤモンドバッファ前段のトランジスタには、こちらも前回と同じく2SC1815(L)/2SA1015(L)ともにGRランクからhFEでコンプリペアを選別します。手許にローノイズ版の在庫があるので、選別します。こちらはそれほどの精度は要求されないのですが、比較的よく揃ったコンプリペアを4組用意できました。

定電流回路には2SC1815(L)のYランクからhFEの揃ったペアを用意します。こちらも無駄にローノイズ版です。今回の回路はカレントミラーなので、定電流の精度がhFEに依存します。しかしこれは同一種別の同一ランクなので、何なく2組用意できました。

checked resistorタクマンREYの精度は1%ですが、万が一に供えて抵抗値を計測しておきます。特に初段差動回路の精度はドレイン抵抗の精度に依存しますし、回路の利得は負帰還素子の抵抗比に依存しますので、後者は特にきっちり精度を出しておく必要があります。チェックが済んだら例によって袋に戻さず、一端を紙にセロテープで留めて整理しておきます。

シャーシ設計・加工

hpa panel今回、シャーシにはタカチのHEN110620を使います。パネルのサイズは幅112mm、高さ66.3mmです。フロントパネルにはパイロットランプ(LED)、電源SW、XLRレセプタクル(オス)、ボリュームツマミを、リアパネルには電源ジャック、RCA端子を、それぞれ配置します。

パネルに部品を配置する際のルールなどは特に決まっていないと思いますが、フロントパネルについては、私は右側によく操作するボリュームを、左側に滅多に操作しない電源SWを配置するようにしています。今回はフロントに出力端子が来ますので、ボリュームと電源SWの間に配置します。

リアパネルへの部品の配置は、フロントパネルに追従します。つまり、入力RCA端子はボリューム側に、電源ジャックは電源SW側に、それぞれ配置します。これを間違えてしまうと、シャーシ内の配線が交差して面倒なことになりますのでご注意を。

部品の寸法は実物にノギスを当てて計測してもよいですが、複数の穴を空ける必要のある部品は確実に寸法を取るために、なるべくデータシートに当たりましょう。今回はXLRレセプタクルボリュームです。

さて、それでは配置する位置を決めましょう。まずは方眼紙を用意し、パネルのサイズに合わせて下書きの枠線を引きます。現物合わせでおおよその位置を決めたら、方眼紙に清書します。方眼紙を切り抜いてパネルに貼り、ポンチで穴を空ける位置をパネルに転写したら、ドリルで穴開けします。というのがこれまでの作業手順でした。

今回は、方眼紙に清書するのではなく、CADを使ってみました。フリーのCADと言えば、Jw_cadです。さくっとインストールして起動し、使ってみます……? 使い方が分かりません。マニュアルが付いてないじゃないですか! やだー! しかしウェブを漁ればJw_cadの使い方を説明したサイトがありますし、書籍も出版されているようです。今回は秋田工専の授業用の資料を参考にしました。

ざっくり作ってみた図面をアップロードしておきます。鎖線などを使っていませんが、そこは専門外の素人ということでご容赦を。

CAD画面を実寸でプリントアウトし、カッターで切り抜き、パネルに貼り付け、ポンチで穴を空ける位置をパネルに写します。パンチで付けた凹みにドリルの刃の先を当て、切削油を垂らし、まずは3.2mmの穴を空けます。より小さい(2mmぐらい)穴から空けていくとより精度が出るようですが、今回はそれほどの精度も必要ないので手抜き。

3.2mmのままでよい穴は、より大きなドリルの刃でバリ取りしておきます。大きくしなければならない穴は、ステップドリルを使って穴を広げます。切削油が切れると切れ味が悪くなって位置がズレたりしますので、適宜切り口に垂らしながら穴を広げます。

今回はXLRレセプタクルの穴がφ22と大きく、手持ちのステップドリルでは20mmまでしか空けられません。とりあえず20mmの穴を空けてから、後ほどやすりで穴を大きくしていきましょう。ちなみに、このXLRレセプタクルをシャーシに固定するネジは3mm径ではなく2.5mm径です。

すべての穴を空け終えたら、CADの図面と見比べて問題ないことを確認します。バリが残っていないか確認し、もし残っているようであればバリ取りナイフなりドリルの刃なりでバリを取ります。バリが残っていると怪我をしたりしますので、要注意です。

穴開けが済んだら、切削油を洗い流します。水だけでは落ちませんので、石鹸や洗剤をつけてしっかり洗い流しましょう。

油を落としたら、現物を当てて問題なく部品を取り付けられることを確認します。先送りにしていたXLRレセプタクルの取り付け穴も、ここで広げます。闇雲に穴を広げると穴がズレたりしますので、適宜、現物を当てて確認しながら作業を進めましょう。今回は、VRを留める穴が少しズレてしまっていたので、これもやすりで削ってVRがちゃんと留まるよう直しました。

やすりで削って出た金属粉を片付けて、すべての部品をパネルに取り付けてみましょう。問題ないことを確認できたら、パネル加工は完了です。

ついでに、VRの軸が長すぎるようであれば、切断します。軸はアルミ製ですので、糸ノコ(金工ノコ)が必要です。また、軸を固定するために、万力も用意しましょう。この時注意するのが、VRの本体を固定するのではなく、切断される側の軸を万力で固定するということです。こうしないと、VR本体側の軸受がダメージを受け、VRに不具合を来してしまいます。今回は先端か12mmほど切断しました。切り口にバリが残ることがありますので、軸を押さえて軽くやすりをかけ、バリを取っておきましょう。

糸ノコは、ピンと刃を張って、あまり力を入れすぎず、糸ノコの自重+αを掛け、きれいに刃を往復させないと、簡単に刃が折れてしまいます。ご注意を。

実装

balanced hpa pcb (right channel)それでは部品を実装しましょう。部品実装のセオリーは、背の低いものから高いものへ、内側から外側へ、です。抵抗器を実装する際は、カラコードの向きを揃えましょう。電解コンは熱に弱いので(自己修復しますけども)、足をある程度切り詰めてから実装すると、すんなりいきます。また、極性にも注意が必要です。

写真左側の緑色のジャンパー線は、バランス化のためのものです。初段グリッド入力への負帰還追加と、初段差動出力のcold(逆相)側信号の取り出し、下側回路への電源の供給(と信号ループの形成)です、信号入力は基板の左下の方から、今回は使わないパターンを利用します。そのため、この入力回りの実装がイレギュラーになっていますので注意を。

トランジスタやFETは、足の向きに注意しましょう。今回終段に採用した2SC5171/2SA1930は、標準の2SC3421/2SA1358とは足の並びが逆です。コンプリペアの外形は同じですので、ラベルをちゃんと確認しましょう。かく言う私は、2SC5171を片チャネルに4コ実装してしまいました。不覚。

基板への実装が完了したら、左右チャネルの基板をスペーサで二階建てにします。次にパネルに実装する部品と基板とを接続します。メンテナンスする場合を想定し、配線に少し余裕を持たせましょう。また、オーディオ信号が流れる配線は、行きと帰りを捩っておきます。心に余裕があれば、捩るピッチをそれぞれで変えておくとbetter。DCの配線は特に捩る必要はありませんが、正負の配線をまとめておくという意味でも、軽く捩っておきます。

ちなみに今回は配線材の色は以下のようにしました。JISの五色法などからは逸脱していますが、気にしない方向でお願いします。

  • アース: 黒
  • 右チャネル 正/hot: 赤
  • 左チャネル 正/hot: 青
  • 左右チャネル cold: 白
  • 電源 正: 黄
  • 電源 負: 紫
  • パネルLED 陽極: 赤
  • パネルLED 陰極: 緑

今回はバランス出力のBTLアンプですので、出力のcoldとアースはまったく別ものです。アースはあくまでもゼロ電位の基準となるだけです(あとはシールド)。ですので、適当にシャーシアースをXLRの1番ピンに接続します。左右チャネルのhot/coldはそれぞれ正しく接続しないと左右で位相が逆になるので注意が必要です。出力のXLRレセプタクルには、以下のように配線しました。

  • 1番: アース (黒)
  • 2番: 左チャネル hot (青)
  • 3番: 左チャネル cold (青とペアの白)
  • 4番: 右チャネル hot (赤)
  • 5番: 右チャネル cold (赤とペアの白)

XLRレセプタクルは3ミリネジではなく、2.5ミリネジで固定します。パネルが飾りネジで留められているのですから、レセプタクルもそれっぽくしたいですね。ということで、六角穴のあるキャップボルトを使ってみました。キャップボルトは、秋葉原のネジの西川などで購入できます。

LEDは例によって、万能ボンドで固定するだけです。アノードとカソードを逆にしてしまわないよう注意。今回は2枚の基板を利用しましたので、片方のLEDはフロントパネルへ、もう片方はシャーシ内(基板上)にそれぞれ実装しました。シャーシの蓋を開けた場合でも、電源のON/OFFの確認が簡単になります。

パネルに実装した部品との配線が完了したら、一休みします。机の上を片付けて手を洗って、茶でも飲みましょう。そして一念発起して、ACアダプタを接続して電源を入れてみます。火花を吹いたり煙を吐いたり爆発したりする部品がなければ、軽く胸を撫で下ろしましょう。

ちなみに、ページ先頭の回路図には反映していませんが、ACアダプタからの電源には村田製作所のEMIフィルタBNX002-01を挟んで、スイッチングノイズを排除しています。基板右側のAC電源部(ダイオードブリッジ)のパターンを利用して実装していますので、本来切り取れるはずのAC電源部の基板がそのまま残っています。

確認

電源が問題なく入ったら、ざっと電圧を計測します。期待する電流値と抵抗値を掛けた値が計測されれば問題ありません。抵抗毎に検出されるであろう電圧のリストを作成しておくと、効率的に作業を進められそうです。もし期待した値と掛け離れた値になった場合は再度計測し直し、それでもNGな場合は電源を落とします。

今回はプリント基板なので基本的には配線を間違うことはありませんが、上述のトランジスタの足の並びや取り違い、抵抗値の勘違い、ダイオードの向き、などなど、実装を間違う可能性は多々あります。また、基板とパネル部品との配線を間違っている可能性もあります。その他、トラブルシューティングは書籍『理解しながら作るヘッドホン・アンプ』P.86からのトラブルシューティングも参考にして下さい。

続いて調整を行いますが、今回は初段FETを選別したので初段のDC調整は不要です。また、負帰還量は固定です(利得は調整できません)。

念のため、出力も確認しておきましょう。無信号状態でhot/cold間に電圧が出ていないか、1Vrms, 1kHzあたりを入力して2Vrms強が出力されるか、等々。入出力を厳密に測定できるのであれば、ボリュームを最大にして利得を求めておくとよいでしょう。

問題なければ、いよいよシャーシを閉じます。タカチのHENシリーズには標準の皿ネジとゴム足が付属していますが、好みによって変えることもできます。今回は、フロントパネルの皿ネジを飾りネジに交換してみました。飾りネジもネジの西川にあります。

シャーシを閉じたら、再度一休みします。机の周りも片付けてお茶を淹れて、お気に入りの音源を用意しておきます。心が静まったら、ヘッドホンを接続し、ボリュームを最小まで絞って、電源を入れます。まだ音源は鳴らしません。また、ノイズが聞こえないことを確認します。

ボリュームが最小まで絞ってあることを確認したら、音源を鳴らしてみます。徐々にボリュームを上げていき、音がちゃんと出ることを確認したら、一応は問題なく動作しているということになります。ボリュームを上げても歪みっぽくならないことや、左右チャネル間の音量のバラつきや違和感(位相差)がないこと、音にノイズが混じらないことなどを確認できたら、ひとまず作業完了です。

ひとまず完成

BTL headphone amp書籍『理解しながら作るヘッドホン・アンプ』に付属の基板と有償(\900)配布している同じ基板の2枚を使うバランス駆動ヘッドホンアンプが完成しました。

  • 電源: 15V 3A ACアダプタ
  • 消費電流: 74mA (片チャネル)
  • 利得: 2倍 (6dB)
  • 出力: バランス (平衡)

初段のFETは治具で選別した(つもりだった)のですが、測定してみたらドレイン電位が0.2Vもズレてしまいました。初段の定電流回路には3.9mAが流れています。電源電圧が高くなっているので510Ωから360Ωに変更したR13を少し増やして、電流を増やしてもよいかも知れません(要検証)。

hot-cold間の利得はほぼ2倍(6dB)、対アースでhot/coldともに利得が揃い、きれいなバランス(平衡)出力となっています。

BTL headphone amp inside overviewはらわたの俯瞰です。シャーシはタカチのHEN110620です。二階建てになっているので、片チャネル(写真のは右チャネル)しか見えていません。アースはリアパネルのRCA端子をシャーシに直付けして左右チャネルで共通にした後は、完全に左右チャネルで独立しています。出力段には2SC5171/2SA1930を使い、写真では見えにくいですが、エミッタ抵抗には虎の子の無誘導巻線抵抗NS-2Bを投入しました。

BTL headphone amp inside 2はらわた その2です。リプルフィルタを構成する電解コンC5a,bの2コにのみ、OSコン(導電性高分子アルミ固体電解コン、SEPC 16V 470uF)を投入しました。他はルビコンの超低ESR電解コン MCZ 16V 680uFです。高さに余裕がある(約20mmまでOK)ので、突入電流等を気にしないのであれば径の同じ1,000uFにしてもよいかも知れません。下側の基板から接続されているフロントパネルのLEDとは別に、上側の基板にもLEDを付けました。これで、シャーシを開けている時でも通電状態が分かりやすくなります。

BTL headphone amp front panelフロントパネルです。パネルを留める皿ネジを飾りネジに変更しました。もうちょっと小さいキャップボルトにしてもよかったかも。ボリュームつまみは、シャーシの大きさ(高さ60mm強)と質感に合わせて、大きめ(φ40mm)のアルミのものにしました。全体的にアルミのヘアライン加工なので、XLRレセプタクルの梨子地がちょっと浮いている感じもしますが、かえっていいアクセントになっている?

BTL headphone amp rear panelリアパネルです。シンプルそのものです。ちょっと間延びしている印象もありますが、普段は目に触れませんので気にしない方向で。

BTL headphone amp in useバランス出力に対応させたAKG K701を接続し、電源を入れたところです。ITTキャノンの標準XLRプラグのブッシュの色は、正直おしゃれとは言いがたい微妙なグレーですが、K701のケーブルもグレーなので逆にマッチしています。

試聴

さて、一晩通電してエイジングを行いました。組み上がった直後からいい音で鳴っておりましたので、特にエイジングの影響は感じません。左右チャネルのアースを独立させて共通インピーダンスを極力排除した結果か、これまでのヘッドホンアンプよりメリハリのある音がするような気がします。また、ノイズはいっさい聞き取れません。

利得は小さめの6dBですが、AKG K701ならボリュームつまみが11時から12時ぐらいの位置で十分すぎる音量になります。SONY MDR-CD900STはK701より感度が高いですから、ボリュームをもっと絞っても十分です。

音質は色付けのない、いつも通りのFET差動ヘッドホンアンプの音です。バランス駆動にしても、そこは変わりません。在庫の関係で超低ESR電解コンを使いましたが、音質に影響はないようです。

あと、注目すべきはコストパフォーマンスです。市販のバランス出力対応のヘッドホンアンプは10万円前後しますが、自作すれば、書籍と基板1枚を含めて2万円もあれば製作できます。おまけに自作の満足感も得られます。これはもう自作するしかないですね。

改修計画

バランス駆動ヘッドホンアンプは一旦完成としましたが、少し気になる箇所があります。

  1. 初段の動作点が最適化されていない
  2. 初段FETのドレイン電位が揃っていない

前者については、電源電圧がオリジナルの12Vから15Vに変更した(加えてマイナス電源も-1.5Vから-3Vに変更した)のに合わせて、初段の定電流回路の電流値を決める抵抗R13の値をオリジナルの510Ωから360Ωに変更したのですが、電流値が3.9mAと減ってしまい、動作点がイマイチ最適化されていません。

2SK170のデータシートにあるVds-Id曲線にロードラインを引いてみると分かりますが、最適化するには、

  • 初段に流す電流を増やす
  • 初段の負荷抵抗を大きくする

あたりが考えられます。後者であれば、裸利得が上がるので負帰還がより強く掛かり、歪率や雑音特性の改善が見込めますが、おそらく耳では分からない程度の微々たるものでしょう。また、片チャネルあたり抵抗を2コ交換する必要があり、しかも今回はジャンパー線も再配線しなければならないので正直面倒です。

ですので、取り得るのは前者の電流値を増やす方法となります。電源電圧15Vのうち、3Vが負電源、リプルフィルタ等の電圧降下を1Vとすると、有効な正電源は11V程度です。負荷は2.2kΩですから、Vgs-Id曲線に(11V, 0mA)と(0V, 5mA)の二点(切片)を結ぶ直線を引きます。動作点の電位が正電源の1/2では特性曲線の左肩(ニーポイント付近)に掛かり、特性が悪化しますので、1/2より少し電位を高くした方がよいです。適当に動作点の電位を6Vとすると、その時の電流はおよそ2.3mAです。つまり片チャネルあたり4.6mAの電流を初段に流せばよいという訳です。

この時、R15は110Ωですので、発生するR15の電圧降下は0.506V、Tr7のVbeをおよそ0.69Vとすると、Tr7のベース電位は対負電源で1.2Vです。Tr5のコレクタとTr7のベースは結線されていますので当然同電位。正電源は対負電源で約14Vですので、R11での電圧降下が12.8Vとなり、R11に流れる電流(≒R13に流れる電流)は1.28mAとなります。

Tr5のVbeを0.66Vとすると、Tr5のベース電位は対負電源で1.2Vですので、Tr5のエミッタ電位すなわちR13の電圧降下は0.54Vとなります。ここに1.28mA流れているのですから、R13は422Ωと求まります。しかしこの値はE24系列にはありませんので430Ωとしましょう。

もう一つの懸案である初段FETのドレイン電位が揃っていない件については、

  • FETを選別し直す
  • ドレイン電位を調整する半固定抵抗器を実装する

の二つの解決策があります。後者はオリジナルの回路にある解決法です。100Ωの半固定抵抗器を初段FETのソース間に入れます。これが一番コストが掛かないスマートな解決策なのですが、今回はFETがペアになっているか実装前にチェックできる(治具と呼ぶにはあまりにも貧相な)回路をラグ板に実装して、確認することにしました。

paired FET check circuit30分程度でこの回路の実装を実装し、FET選別治具を用意します。先立ってVgsを10mVごとにふるい分けてあったので、その単位で再度Vgsを計測し直し、Vgsでペアを取り、ペアチェック回路で確認します。何と! Vgsで揃っていたように見えても、チェック回路ではドレイン間に200mVもの電位差が発生するペアと呼べない組がある一方で、ほんの10mV程度に落ち着くペアもあり、何でこんな簡単な回路で確認してこなかったのかと、これまでの選別に掛けてきた時間は何だったのだろうかと、小一時間ほど自分を説教したくなりました。

何はともあれ、Vgsが近く、かつドレイン電位差が10mV程度のペアが2つありましたので、これに交換しましょう。負荷2.2kΩで10mVですから、0.0045mAのズレが生じています。負荷には2.5mA流しますので、およそ0.2%のズレです。改修前は5%のズレでしたので、およそ1/25になりました。歪み率も多少は改善されることでしょう。

改修

シャーシを開けて基板を取り出し、はんだごてではんだを溶かし、はんだ吸い取り器で吸い取ってFETと抵抗(R13)を外し、新たに選別したFETと抵抗を実装し直します。はんだ付けの熱が冷めた頃に電源を繋いでONにし、初段ドレイン間の電位差を計測し直します。今回は0.02V程度に納まりました。ひとまず現時点ではこれでよしとします。

おそらく歪率が多少改善されたと思いますが、正直なところ、聴感上は違いは分かりません。精神衛生上の問題ということで。

完成

BTLヘッドホンアンプ 回路図 完成版完成版の回路図をアップします。電源SWの後ろに村田製作所のEMIフィルタBNX002-01を入れ、その後で左右チャネルに分けています。もちろん、EMIフィルタを左右チャネルごとに入れてもよいと思いますが、そこまですると過剰投資かも知れません。

消費電流は片チャネルあたり80mA、うちLED回路に6mAが流れ、増幅回路には残りの74mAが流れます。初段の定電流値を決定する抵抗R13を430Ωとし、初段のそれぞれのドレイン電流は2.3mAとしました。

BTLヘッドホンアンプ ネジ交換当初はフロントパネルを飾りネジで留めていましたが、直径が8mmぐらいで高さも結構あり、ちょっと大仰になってしまった印象がありました。そこで、もうちょっと控え目なキャップボルト(六角穴付きボルト)と交換することに。ネジの西川にはステンレスのものの他に黒いものがあり、こちらを購入してみました。

バランス駆動ヘッドホンアンプ 完成黒い控え目なアクセントが四隅に配置され、引き締まった感じになりました。アルミ(アルマイト)の質感を大事にしたいのであれば、ステンレスのキャップボルトの方がよいかも知れません。

雑感

FETの選別に骨が折れました。当初は、指で触れないようICクリップでつまみ、息が掛からないよう手拭いで顔を覆い、Vgsの変動が納まるまでじっくり待ち、とやって選別した結果が0.2V強のドレイン電位の差になってしまっていた訳です。ドレイン抵抗が2.2kΩですから、0.1mAの電流の差が発生しています。それぞれに約2mAずつ流れているので、これは5%のズレです。Vgsのほぼ揃った(ように見えた)ペアであるにも関わらず、です。

今回の完成後の改修では、FETがちゃんとペアになっているか否かを確認する治具(回路)が役に立ちました。実装前にペアを確認することで、ドレイン電位のズレを1/10に減らすことができました。こういう治具を増やすことで、自作の楽しみが一つずつ増えていくのでしょう。もちろん、自分で選別する労力を省くべく、ドレイン電位を調整する半固定抵抗器を使うと割り切るなり、頒布されているFETを購入するなり、という選択肢も大いにアリかと思います。

要は、どこにその人の価値観を置くか、ということになるのかも知れません。

書籍付属基板利用 バランス駆動ヘッドホンアンプ への1件のフィードバック

  1. PM23 のコメント:

     こちらで掲載なさっているいる記事をほぼ忠実にまねて製作した者です。
    頒布基板を利用したバランス型アンプということで、回路図と基板の外観がほぼ一致するため、自分がどこに何を実装したか把握しやすくて良かったです。
    以下、実際に音出ししながらトライ&エラーで自分なりに改造してみました。

    ①高音域のざらつき・やかましさ
     ACアダプターの出来と、R31(リップルフィルタ)の抵抗値に強く依存しているようです。プラス側電圧と引き換えにしても、R31が2倍の24Ωほどあれば必ず音が落ち着きました。人によってはジャンパさえしてしまう箇所らしいですが、音のなめらかさで言えば、ここの抵抗はオリジナルの値に近い方が適正と感じます。

    ②低音域が極端に引っ込む(または高音が際立つ)現象
     ヘッドホン出力直前でアースに落ちている200Ωに関係していました。私はK701をアンプからはずすことがないので、この200Ωを全て省略させていただきました。

    ③クロストークとシャースアース
     入力がRCAでも、折角のバランス型アンプです。シャーシを浮かせば多少なりハムノイズが出ますが、その方が音が良い(???)と感じたことが事の始まりでした。
     結局、「信号側でなくDC電源のマイナス端子でシャーシアースを取る」という暴挙で決着しました。また、各基板上のDCプラス側の4.7Ωに対称させる形で、DCマイナス側に勘で1Ωを入れました。ダイオード4個でマイナス電圧を大きめに取っているからか、私が妙な改造をしても普通に動作してくれています。

     vacu.um-tu.be様、非常に楽しませていただいております。ありがとうございます。

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